英語教育実施状況by文科省 EBPMの素材として

令和五年度版の英語教育実施状況調査が文部科学省から先日発表になりました。

この調査は、全国の各都道府県および政令指定都市を対象に英語教育に調査をし、それを統計として発表してるものです。毎年様々なメディアで取り上げられ、関連した解説ニュースなども多くみられます。

内容が重複するので、今年の注目ポイントを今回は取り上げました。詳細は過去記事をご参照ください。

英語能力は低下?←文科省「英語教育実施状況」より

英語教育の成果は本当か福井県←日経

英語教育調査←文科省 何をすれば英語力は上がるのか?

文部科学省の英語に関する用語・考え

英語力の基準

文部科学省の今回の資料では、下記のような考えに基づいています。

成績については、CEFRと呼ばれるヨーロッパの英語基準を用いています。

ここで出てくる基準だけ抜粋すると、

  • A1レベル≒英検3級(中学3年)
  • A2レベル≒英検準2~2(高校2~3年)
  • B1レベル≒英検2~準1(高校3から大学)

中学校における英語力

中学では、

  • A1の成績を外部試験で取得した生徒(以下、A1取得)
  • A 1相当の能力があると判断された生徒(以下、A1相当)
  • それらの合計(A1合計)

の三つのレベルで分析しています。

高校における英語力

高校では、

  • A2の成績を成績を外部試験で取得した生徒(以下、A2取得)
  • A2相当の能力があると判断された生徒(以下、A2相当)
  • それらの合計(以下、A2合計)

に加えて、

  • B1の成績を成績を外部試験で取得した生徒(以下、B1取得)
  • B1相当の能力があると判断された生徒(以下、B1相当)
  • それらの合計(以下、B1合計)

の六つのカテゴリーです。

まったくCEFRと英検は同じ基準ではないので、開きがありますが、大体のレベル感がつかめると思います。

相関関係で分析

相関関係とは

このサイトでのデータの分析は、ある項目と比較対象の相関関係で求めました。

相関関係とは、2つ以上の変数が互いにどの程度関連しているかを示す関係です。相関が正のとき、一方の変数が増えるともう一方の変数も増え、負のときは一方が増えるともう一方が減ります(相関が負の時、一方が増えると、もう一方が減る)。

相関の強さは、-1から1までの相関係数で表されます。1に近いほど強い正の相関、-1に近いほど強い負の相関があります。0に近い相関係数は、変数間にほとんど関連がないことを示します。

  • 1に近い→正の相関がある(同じように増減する)
  • 0に近い→相関がない(バラバラ)
  • -1に近い→負の相関がある(逆の動きをする)

そして具体的には、

  • 0~0.3未満:ほぼ無関係
  • 0.3~0.5未満:非常に弱い相関
  • 0.5~0.7未満:相関がある
  • 0.7~0.9未満:強い相関
  • 0.9以上:非常に強い相関

があるとされます。

相関関係=因果関係ではない

注意点としては、相関関係は、変数同士のお互いの変化の度合いを見ただけであって、因果関係(原因と結果の関係。電気をつけっぱなしにする→電気代が上がる)があることを示しているわけではないことです。この関係をイメージしやすい極端な例で「ブサイクな人」と「成績が良い人」に相関関係があった場合でも、ブサイクだから成績が良い、ということを必ずしも示しているのではありません(成績が良い子がたまたまブサイクだけなのかもしれません)。

中学生には英検を受けさせよう

文部科学省の当該資料で相関関係が高かった施策を紹介しています。ですが、そこに不記載のそれらよりももっと成績に正の相関を及ぼすものがあります、中学生には。それは外部試験を受けることです。

外部試験を受験した率とA1取得の相関は0.71。A1合計でも0.48と、他どのの項目よりも成績との関係が高く出ます。

もちろんA1取得は、試験を受けないとA1取得はできないので受験率と取得率との相関は高く出るの当然でしょう。しかし合計においても、相関関係が高いことには注目です。受験することにより、それに向けて学習し、たとえ不合格でも英語力が上がるというような効果があるのではないかと想像します。

証拠に基づいた英語力向上策

群馬県みどり市では、今年度(2024年度)から下記の施策を始めるそうです。

市内の中学3年生を対象に英語検定の受験料1回分を全額助成する。本年度の対象は417人で、関連予算210万円を確保した。全額助成は県内12市で初めてという。

上毛新聞 2024/6/16

助成回数、助成対象が3年生だけ、というのは議論があるところかもしれませんが、高い英語力との相関関係から見たら、理にかなったものです。こういった取り組みはエビデンスに基づく政策立案(EBPM)として高く評価されるべきです。

どれも決定打に欠ける

英語の授業コマ数、授業時間

正直、文科省が上げている項目ほかのどれを見ても決定打に欠けると思います。英語に特効薬はない、ということでしょうか。

しかし私の体験からして、勉強時間と英語力は比例します。記憶科目ですのである意味当然と言えます。ですので授業時間の多寡の調査をぜひしてもらいたいと思います。

ちなみに、全国一、二位を争っているさいたま市は全国の標準授業時間の約2倍のコマ数の英語レッスンを行っているようです。(こちらも参考:さいたま市の中学生英語力、全国1位…英検3級相当9割弱

不都合を受け入れる

ということで、残念ながら我々(大人全般、文科省、教育委員会)が考え行ってきた結果は、企図に反して結果が出ているとはいえません。

いろいろ行ってきた施策や教員の努力では解決しない、ということを受け入れるかということが、英語力向上の秘訣ではないでしょうか。

自分が一生懸命やった結果ではなく、お金で解決できたり、全く関係のない要素で英語力が上がる、というのは認めたくないものです。例えば「英検受験の補助をするのが一番英語力あがるみたいだから、授業や税金ははそこを集中的に、、」と言ったら、おそらく多くの関係者から反発が来ると思います。出来ない、よくない理由をこれでもかと並べてきます。

また、授業時間の多寡で比較すると、

  • ただでさえ授業時間の確保がむつかしいのにどうやりくりするのか
  • 先生の働き方改革で時間は増やせない

と八方塞がりなので、パンドラの箱を開けたくない。

考えてみてください。子供のために健康に気を遣い、化学調味料なるべく減らして一生懸命ご飯を作ったのに、冷凍食品のほうが美味しいと言われ瞬間を。

子供の英語力のためなら、と思い不都合な現実を受け入れることが、子供の英語力向上の第一歩です。