英語教育調査←文科省 何をすれば英語力は上がるのか?

文部科学省の令和4年度「英語教育実施状況調査」が発表されました。

この調査は、全国の公立中学校、高等学校における英語教育の状況調査していて、基本的に毎年行われている調査です。毎年発表され、メディアでも、様々な意見が表明され、特に成績の良かった自治体の取り組みはクローズアップされます。それらを、データで確認してみました。

中学校は、都道府県及び政令指定都市、高校は都道府県単位で調査が行われていて、生徒の成績や、各自治体の取り組み状況が分かり、非常に示唆に富むものです。

過去二回、これらの調査に興味を持ち、同じようなブログを書いてきました。英語力トップ自治体の取組と虚実←産経新聞より

英語教育実施状況調査のサマリー

「英語教育実施状況調査」で、私たち行政関係者ではない市井の人に、必要な情報としては

  • 福井県、さいたま市が中学レベルでは、ぶっちぎって英語力が高い。
  • 高校では、「引き続き福井県がトップではあるが、その差は縮まる。」と言うものでした。

ちなみに、さいたま市は政令市なので、都道府県と肩を並べて出てきますので、埼玉県の間違いではありません。どれくらい「ぶっちぎっている」かというと、平均値が49.2%のところ、福井県は86.4%、さいたま市は86.6%です。数値だけ見てもわかりませんので、グラフで示すとこんな感じです。

この二つの山の左が、福井、右がさいたま市です。どうです?ぶっちぎってるでしょ。

データで論拠を確認する

先述しましたが、この調査は、今はやりの英語に関することであり、毎年ニュースになり、様々な言説が飛び交います。特に良い成績を出した県や市の取り組みは、とかく真似されがちです。

行政と言うのは、そういったところをベストプラクティスとして参考にし、そこへの視察、そこの取り組みの導入など予算獲得に動くのが通例だと思います。では、この結果だけで果たして信じてしまって良いのでしょうか。

日本ではEBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)が弱く、感覚や飛びつきではなく、証拠に基づいた政策形成ができていない、と言われています。そのつけを払うのは納税者たる国民私たちですし、子どもたちです。そういったことを排除するにもしっかりとデータを確認することは重要です。

まず文部科学省が、相関があったと言われる取り組みについて

文部科学省の分析

文部科学省自身でも分析をおこなっており、「生徒の英語力向上に関する分析」の中で、

生徒の英語力の向上には、相関分析や取り組みの変化に着目した経年変化、分析の結果「生徒の言語活動の割合」「英語教師の英語力、発話の割合」「ICTの活用(発表や話すことに起きるやりとりをする活動)」等が影響与えている

令和4年度「英語教育実施状況調査」概要

としています。としています。まず「生徒の言語活動の割合」から見ていきたいと思います。

分析と用語

なお、相関分析を行い、小数点第二位で四捨五入し、%は数値としています(75%は75)。ちなみに、相関係数は-1~1の間であらわされ、1に近ければ強い正の相関関係があり、0は相関関係がない、-1に近ければ、負の相関がある、ということになります。

なお、英語力としてCEFRのA1などが出てきますが、これは英語能力を表す基準と数値です

画像タップで文科省のページに飛びます。

この後は、特に言及なくアルファベットと数値の組み合わせが出てきた場合、このCEFRの基準となります。

また、結構面倒くさいのが、英語力レベルの認定です。

これらの基準を外部テストで取得した人と、教師が認定した人というカテゴリーが出てきます。その場合は例えばA1を取得した生徒の場合「A1取得」、認定した人は「A1推定」とし、その両方を表す場合は「A1合計」とします。

アルファベットはA→B→Cの順で英語力があがり、数値も多いほうが英語力が上です。ですのでC2が最上でA1最低レベルです。

そしてA2とB1を分析する場合、A2の分析にはにはB1の生徒も入っており、別々ではありません(英検3級レベル以上の生徒には、英検2級以上の生徒が含まれるのと同じ理屈です)。念のため。

生徒の言語活動の割合

言語活動の割合では、

(a)授業中、75%以上の時間、言語活動を行っている学校の割合
(b)授業中、50%以上75%未満の時間、言語活動を行っている学校の割合
(c) 授業中、50%以上の時間、言語活動を行っている学校の割合 (a)+(b)

とデータを取っております。

高校の場合の相関係数は0.26

B1レベルの英語力がある生徒との相関関係はマイナスとなっていて、負の相関がありますが、A2以上の場合、0.26となっていて、相関がみられます。

B1とA2に逆の傾向が出ていて、その原因が興味深いところです。

中学の場合は0.33

(a)(b)(c)のいずれの場合でも、正の相関がみられ、全体で0.33となります。

英語教師の英語力と相関あり

高校では高ければ高いほど

高校では先生の英語力が高いと、英語力が高いと言うのは、正の相関関係が見られました。

講師が「CEFR B2レベル相当以上を取得している」比率が高いと、生徒が、CEFRのA2以上のレベルである生徒の割合が高く、その相関係数は、0.37となりました。

もう少し気になり、先生の「C1取得率が高い」自治体を分析したところ、A2、B1取得ともに0.5となり、より高い相関関係がみられました

中学校も0.35

中学生に関しても「CEFR B2レベル相当以上を取得している」比率が高いと、生徒が「CEFR A1」レベル以上の能力がある生徒の比率が高く、相関係数は0.35となり、相関関係がみられました。

発話の割合

では、発話の割合はどうでしょうか?発話に関しては、

(a) 発話の75%以上を英語で行っている学校の割合
(b) 発話の50%以上75%未満を英語で行っている学校の割合
(C) の合計で発話の50%以上を英語で行っている(a)+(b)

の3つでデータをとっています。

高校は0.237

B1に関しては、(a)は、0.13と相関ありましたが、(b)(c)ではわずかな負の相関がありました。A2に関してはa、b、cのすべてで0.237と相関関係が見えました。

中学校の場合

(a)、(b)、(c)のすべてで、0.36,0.19、0.28と正の相関関係がみられました。

ICTの活用に関して

高校は0.34

ここに関しては、「全ての学校のうち、英語の授業において、「生徒がパソコン等を用いて発表や話すことにおけるやり取りをする活動」を実施した学校の割合とB1以上は- 0.02と負の相関がありますが、A2に関しては0.34と相関があります。

ちなみに、ついでに分析してみた「全ての学校のうち、英語の授業において、「教師がデジタル教材等を活用した授業」を実施した学校の割合」に関してはB1は0.01、A2以上は0.37ともっと強い相関がありました。

中学は0.25

中学生の場合どうでしょうか?中学生の場合は、相関係数が0.25と相関関係が見られます。

英語力の源や各取り組み等々を考察

さて、ここまで調べてきたものの、前述した通り、相関関係は、− 1から1の間で示されます。そのほとんどが0.3とか0.2の相関関係があると言われても、いまいち数値が低く、相関があると言われても、いまいちな気がしました。

ですので、他の数値を比較してみたところ、また別の側面が見えてきました。

外部試験受験率と英語力の相関はかなり高い

中学校においては、外部試験へ受験率とA1合計については0.55と、今まで見てきたよりはるかに高い相関関係が見られました。

高校においても、外部試験受験とAA2合計は0.52と、かなり高い相関が見られます。(ちなみにB1取得が0.33と、少し相関が下がるのは面白いところです。)

今のところ、英語力の高さに、外部試験受験が最も相関があります

学力テストの結果との関係も高め

また中学校レベルでは学力テストとの関係も強い相関が見られました。令和3年度全国学力、学習状況調査のデータを比較してみると0.46となり、これも相関が見られました。

この数値を見ると、英語力の高さは自治体ごとの英語力への努力と言うよりも、そもそもの学力差なのではないか、と言う気もしなくもありません。

英語力に家計の出費は関係ない?

総務省の家計調査の教育支出と、A1の合計の相関関係も調べていましたが、予想に反し0.2と、低い相関関係が見られました。高校のA2も0.14でした。

中学時代の英語力と高校での結果を分析

中学時代の英語力などが、高校の英語力等にどう影響するかも調べてみました。

中学の時にA1の合計の比率が高い県は、高校でA2レベルを取得する相関関係が0.45と、高く出ました。また、A1の同レベルのものと、B1を取得する相関関係は0.56とこれもまた高く出ました。A1取得と、B1を取得するかどうかの相関関係も0.48これはやはり高くてます。

また中学の時に外部試験を受けると、高校に入ってからも外部試験を受けるかと言う相関関係は0.8、非常に高く出ました。これは英語頑張ってる子は、引き続き頑張るよと言う結果なのかもしれません。

高校の先生の頑張り

少し視点を変えて、「中学のA1合計の率」が「高校時代A2取得する率」がどれだけ増えたか、要は高校の先生たちが成績アップに貢献したか、のランキングをつけてみました。

1位は鳥取県で、46.82%増加。2 位静岡県で41.42%増、 3位富山県31.24%増でした。

逆に、悪化してしまったのは、福井県の−29.63%。次いで、2位の千葉県は−21.32%、第3位は、群馬県で−18.10%でした。福井県のワーストに関しては、中学A合格率が全国一位なので、もともとが高すぎたのでと言うことも言えるかもしれません。逆に言うと、中学校の先生たちが頑張っていた証拠でもありますね。

ちなみにB1取得でも比較してみましたが、1位はやはり鳥取県、2位愛知県、3位静岡県でした。

この2つの合計を比較してみると、総合一位やはり鳥取県、第二位は静岡県、第三位は富山県と言う結果になりました。

ここから参考にすべきこと

外部試験受験が手っ取り早い

ほかのどれよりも可能性が明確

ここまで見てきたように外部試験の受験率と成績の高さは相関があります。

外部試験を受ける(受けさせる)ことが、成績アップの可能性が高いです。因果関係があるかどうか分かりません。それを言ってしまうと、他のどの項目も因果関係があるかどうか分かりません。

しかし、数値で明らかになった相関関係がある方策を講じる事は、最も合理的でしょう。

俗説に惑わされない

よくこういう時に、もてはやされるのが、成績の良い自治体で行われているスピーチコンテストなどの英語イベント、地域独自教材や、ALTの数です。

しかし、これらは、因果関係はおろか、相関関係も明らかではありません(ALTの数と英語力は相関あり)。

教員の負担や厳しい財政状況を考慮すると、新たな取り組みを「とりあえず始める」ことは難しいです。現在のパイの大きさを変えることが難しいため、何かを始めるためには、時間的、費用的、内容的なトレードオフが必要となります。また、税金の適正な配分のためにも、少なくとも定量的に効果が見込まれる施策を選択するべきです。

そうなると、やはり外部試験を受けさせることをまず選択肢の第一に持ってくるべきです。

腹落ちする外部試験受験の効果

またこれは肌感覚でも納得できます。英検等があれば、学校の自宅学習とは別に、それの合格に向けて勉強する時間が増加すると思います。英語に取り組む時間が純増し、その結果英語力が上がるのではないでしょうか? 塾の生徒たちを見ていても、英検のおかげで勉強時間が「純増」しています。


福井県は英検受験などに積極的な取り組み

また福井県では、外部試験受験を促進すべく、2016年から英検やGTECなどの外部検定の受験料を補助しているそうです。福井新聞;中高生の英語力、福井県が全国1位の理由)この辺りは他の自治体も導入の検討を進めてはいかがでしょうか?できない理由が現場などからわんさか出てくるでしょうが、ほかの自治体が取り入れているので説得しやすいでしょう。

高校は伸び率の高い県を参考に

福井よりも行くべき高校躍進の3県

また、全国の高校教育の関係者は、福井県詣でをするのではなく、中学の成績からの伸び率の高い意見を参考にすべきでしょう。どうやってそこまで伸ばしたのか、そこを見るべきです。そもそも高い英語力を持っている福井県を参考にしても、あまり意味がありませんよ。

具体的に言えば、先ほどランクインした鳥取、静岡、富山県の高校の取り組みを研究すべきです。

CEFR B1合計トップの東京も

今年から、統計を取り始めたB1(英検2級レベル)は、今までなりを潜めてきた東京が突如、トップに出てきます(30.8%)。そして2位もこれまで無名だった愛媛県が(26.9%)。私には「急にどうした?」って感じです。3位には、わが富山県がランクインします(26.7%)。

この数値は、底上げではなく上位の子をより伸ばせたか、と言う統計になると思います。意欲があって、能力もある上位の子たちをより伸ばせる指導体制が整っていたと言うことなのかもしれません。

英検2級は、そこまで高い英語力が求められるわけではありませんが、しっかりと善導しないと受験と合格に結びつきません。

そもそも英語力を上げる投資はどうあるべきか


今回もう一つ明らかなのは、中学校よりも高校の方が、成績のばらつきが小さいことです。中学校のA1合計のばらつき(標準偏差)は9.63に対して高校は5.28となっています(数値が小さい方がばらつきが小さい)。

見た目重視なら中学校に

おそらく成績の芳しくない自治体の担当者たちは、この差を縮めるように考える、もしくは考えさせられるでしょう。

見栄えが良いのは中学校への対策です。今の差は大きいので、非常に目立ちます。逆に言うと伸び代が大きい。ですので、中学校への投資は、(成績の)見た目の改善には効果的です。

実力を上げるなら高校?

この減少幅、中学から高校で、ざっくり言うとばらつきは約半分になってると言うことです。そしてそれは、中学へと高校への、県の姿勢は劇的に変化しないでしょうから、勝手に成績の差が縮まった、と言うことです。

英語力を比較する物差しが微妙?

これは不思議です。あまり新規に学ぶことがなく、難易度が相対的に下がったのかもしれません。今までのように新しいことを習うことがなく、(語いを除く)できることできない。この差が開きづらくなったかもしれません。

もしくは英検準二級相当という基準が低すぎるかもしれません。高校の3年間の学びが、英検3級と準2級とたった一つの級の違いです。ちなみに3級は、中学卒業程度、英検準2級のレベル感は高校中級程度。さは、小さく感じます。ですので、そもそもの物差しが間違ってるのかもしれません。ですが、そうなると、高校のA2合計率が低過ぎる感じもします。

成長に伴う能力向上のため?

これは高校生が年齢に応じて能力が高まったからではないでしょうか?また、経営学的な「経験効果」により高まった可能性もあります。いずれにしても、年齢や年月経過による要素によるのではないか、ということです。

というのも、ばらつきが解消する要素が、正直それ以外見当たりません。高校生になると、専門科へ行く生徒もおり、そういう生徒たちの英語の学習時間、学習内容は減少します。英語学習の名実ともに減るのに、成績の差が縮まるのは、年齢による能力、向上くらいしか説明がつきません。

となると、英語能力が伸びる可能性が高いのでは高校生なのではないでしょうか。この観点から、学生本人のことを考えて、英語へ投資するのであれば、高校な気がします。

最後に、、、

英語の授業時間のデータを集めて

また、今回抜け落ちているのは、英語の学習時間の比較です。

英語は効率もさることながら、学習時間、量が必要です。ですので、学習時間を確保していたかどうかと言うのは、重要な軸だと思います。

その辺もぜひ今後調査してほしいと思います。

ちなみに、朝日新聞によると、さいたま市では小中学校で、国の定める標準時間数の260コマ以上多く英語に触れさせているそうです。

今後、様々メディアから英語力の高い県の取り組みが報道されると思います。それらを分析していきたいと思います。

文部科学省の野望(追記)

6月16日の記事によると、文部科学省は現在の英語力の目標値をさらにあげるようです。
中学生のは英検3級相当の生徒の割合、高校生の英検準2級相当の割合を6割(現在の目標値は5割)、英検2級相当の割合は3割にするそうです。

高校卒業段階で「英検準2級相当」6割以上に 教育振興基本計画(朝日新聞)
英検2級相当、高校で3割に 新たな教育計画を決定―政府(時事通信)

ちなみに現状を見てみると
中学 49.2%
高校 準2級48.7%、2級 21.2%
となっています。と言うことは、中学は約21%、高校の準2は約23%、2級は41.5%(‼︎)の上積みです。

政策や、予算の制約がありますが、ぜひとも、この目標を達成してほしいと思います。