暖かい日が続いたと思ったら、雨で寒い日が。春は三寒四温といいますが、それを体感させてくれるような天気の移り変わりです。
さて日本経済新聞に福井、60年の英語教育実る 外国人助手10万人あたり最多
と言う記事がありました。記事のポイントとして
- 英会話を教える外国人の指導助手。福井県が最も手厚い
- 県内学生の英語検定実績は他を圧倒。国際人材も輩出
と言うものです。
過去記事はこちら:英語力トップ自治体の取組と虚実←産経新聞より
福井県の英語力と取組
ずば抜けた英語力
文部科学省の英語教育実施状況調査(2021年)によると、中学生の「CEFR A1レベル相当(英検3級レベル)以上の英語力を有する生徒の割合」は、85.8%と全国1位。
全国2位である群馬県の60.9%を大きく上回っていて、いかにこの数値が高いかわかります。(全国平均は47%)
地道な英語力向上に向けた取組
記事では福井県が英語力向上に向けた取組として
- ALTの数を増やす
- 地域全体の人材(教員)育成
が挙げられています。
ALTの数は突出(人口比)
福井県は、
人口10万人あたりのALTの人数を都道府県別に算出したところ、21年度時点で最多は福井県の33.95人。全国で唯一30人を上回った。
福井、60年の英語教育実る 外国人助手10万人あたり最多
人材育成
半世紀前から教員が自主組織を立ち上げ「使える英語」を習得させるべく努力したり、1960年に福井県は全国で初めて高校入試にリスニングテストを導入したりしてきた。
この成績の良さは本物か?
さて、この福井県の英語力の高さは、本当に実態を表しているのでしょうか?
この文科省の英語実力調査については、有力な反論があります。詳細は下記の記事を参照してください。
「英語力日本一は○○県!」と安易に報じる前に考えてほしい――文科省「英語教育実施状況調査」の問題点
教員による自己申告である
この文科省の調査は、実は客観的なものではありません。よく見てみると、実際に英検3級等を取った生徒の割合ではありません。教員が英検3級レベル以上の実力があると考えた生徒の数です。
福井県は、本記事にあるように昔から学校の先生による英語指導が熱心です。これ大変素晴らしいことではありますが、この教員同士の「空気」や、教員の評価基準が、この調査に対して、水増しとは言わないまでも、甘く評価した可能性はあると思います。
高校生の成績は大した事ない
この調査には、高校生のレベルも載っているのですが、高校生レベルでも、福井県は1位であるものの、そこまでずば抜けたものではありません。2位である我が富山県と大差ないのです。
同じような体制で高校での教育に臨んでいるのであれば、もう少し差がついても良いのではないかと。
因果関係どころか相関関係さえない
以上のことから、福井県の取り組みは素晴らしいのですが、この記事の評価は過大ではないかと思います。
この記事では、ALTの数が英語力向上につながった、と言っていますが、疑問です。前述のとおり、福井県は人口10万人あたりのALTの数は33.95人。全国で唯一30人を上回ったと。では、ALTの数と成績は因果関係にあるのでしょうか?
この記事でALT数で第2位になっている鳥取(27.69人)はというと、英検3級以上と考えられる生徒の割合は40.3%で、平均以下どころか、下から数えたほうが早い。3位の山梨(26.46人)は、39.3%。ALTの数と英語の成績と因果関係どころか相関関係さえ見えません。
中学の英語の全国2位である「さいたま市」は、人口10万人あたり10.89人。3番目に高い、福岡市は言うと、人口10万人当たり15.99人。
対して、全国ワーストの佐賀県では、19.98人。二番目に悪い愛知県は8.59人でこれは比較的低い。その次に悪い島根県は19.85人。
これら出てきた数字を計算してみると、(サンプル数は少ないですが)相関関係は-0.279。相関係数は、-1から1までの範囲の値をとり、1に近づくほど正の相関関係が強く、-1に近づくほど負の相関関係が強くなりますので、むしろALTがいると成績が悪くなる、という傾向さえ見えます。
(訂正)この記事を書いた際は、特徴ある自治体を抽出して書きました。2023年度の調査で全国を分析したところ、ALTの数と英語力には相関性がありました。中学校で0.23、高校で0.09となりました。
心配な教育行政
このような記事に書かれた福井県という「特異」な点だけを捉えて物事をとらえてもらっては困ります。夕刊紙などで出ているならまだしも、クオリティーペーパーで出てほしくありませんね。
心配なのは、教育現場です。
(2023年加筆)2023年度の日経の記事にも
英語教育に詳しい東京外国語大の投野由紀夫教授は「調査開始時と比べてかなり伸びており、改革の効果が出てきている」と評価する。地域間の差は予算規模の違いもあるとしつつ「英語力が高い自治体の取り組みを参考に、<退職教員を若手教員の育成にいかすなど地域で有効な改善策を検討することが必要だ」と強調した。
日本経済新聞 電子版 2023年5月17日
とあり、生徒たちの成績アップに悩む英語教育担当の県や政令市職員は、こういった記事に「飛びつき」、福井詣でをして、ALT数増加へ向けて予算アップに邁進するのでしょう。
私も基本的に、英語力向上の観点から言えば、ALTの数は多い方が良いと思います。しかし、ALTを雇う目標は何なのか、ということと、客観的な分析に基づき、教育政策を立ててもらいたいと思います。
真に褒められるは富山県の高校教師?
最後に、我が富山県の状況と言うと、ALTの数は16.09人/10万人。
英語力を有する生徒の割合は、43.8%、全国平均(47.0%)を下回っております。もっと頑張りましょう!
ちなみに、高校は順位で言うと全国2位で59.3%。1位の福井県は59.6%で大事なので、ほぼ同水準です。中学時代は全国平均以下の生徒たちを全国2位まで持っていったのですが、富山県の高校の先生こそ褒め讃えられるべきではないかと思います。