(TSMCについて、8月14日の日本経済新聞の記事に基づきブログを書きましが、その後工場設立とそれが及ぼした効果だけでなく、外部効果についても追加で様々な報道されていましたので、加筆いたしました。)
8月14日の日本経済新聞に「世界標準型」がやってきたTSMC熊本上陸の衝撃と言う記事が載っていました。
台湾の半導体大手TSMCが熊本県に新工場を設立しますが、その波及効果が「衝撃」的で、今の若者の将来を考える上で、大変示唆に富み、必読です。
台湾の半導体工場、国内設立の背景
このTSMCと言う会社は、台湾の半導体製造会社で、受託生産では世界最大の企業です。
記憶に新しいと思いますが、コロナ禍が終わり(終わっていないのは日本と中国)、世界の経済が一斉に動き出したことから、半導体の需要が膨らみ、世界的に品薄状態となりました。
半導体は、ほぼすべての電気を使う製品に使われており、その品不足は、日本に残った唯一競争力のある「自動車」の生産に遅れを生じさせました。トヨタのランドクルーザーは、半導体不足だけが原因では無いようですが、新車の納期は四年以上!となっているそうです。
半導体の優先調達や経済安全保障の観点から、日本政府が補助金を最大4760億円を支給することでTSMCを誘致し、熊本県に半導体工場を作ってもらうことになりました。
グローバル企業は黒船?
前置きが長くなりましたが、日経新聞のこの衝撃はなにがどう衝撃的なのかというと、「4つの世界標準」が導入されたことだそうです。
- スピード
- 英語
- 賃金
- グリーン調達
の4つが衝撃的であるとのことです。
・スピード
1兆円規模の工場をわずか2年半位のリードタイムで更地に建設
・英語
新卒採用の面接は日本語か英語かを選び、内定者の多くは英語で臨んだ学生であり、また内定後に送られてくる書類も全て英語。
・賃金
大卒初任給は28枚と県内平均より70,000円高い。
・グリーン調達
工場操業開始ら再生可能エネルギー100%で運営
ここで言及したいのは、賃金と英語のところです。
賃金は国内人気トップ企業より高い
ここでは新卒だけに焦点を絞りますが、
JASMの大卒初任給は28万円で、例えば三菱商事の25万5000円やトヨタ自動車の20万8000円よりもかなり高い。熊本県庁の18万8700円と比べると10万円近い差がある。
とのこと。国内人気トップ企業よりも高く、熊本という東京より平均賃金が安い「地方」という点を加味すると、よりその高さが際立ちます。
グローバルに競争している産業では、人材採用もグローバルです。という事は、待遇もグローバル。平均賃金がこの30年ほぼ横ばいの日本と比べて、はるかに高い給料を提示してくるケースもあります。ちなみにTSMCの2021年の売上高は約7兆円で、平均年収は1700万(!)だそうです。
面接、手続きも英語
上記のようなグローバル企業で良い待遇を得たいと考えたとき、英語力は必須です。すでに、別の台湾企業に救済買収されたシャープでも社内公用語は英語になるとの事で、これについては会社の国籍を問いません。
大学生の就職面接が英語
地元の大学から、この工場に就職が決まった学生たちは、入社試験から入社に至るまですべて英語で行う例もあったそうです。
10人強の学生が内定したという崇城大学(旧熊本工業大学)の中山峰男学長は「面接試験は日本語か英語かを学生が選ぶ仕組みだが、内定者の多くは英語で面接に臨んだ学生」という。
内定後に送られてくる分厚い書類も英語。JASMの公用語も英語になる、という観測もあり、「実践的な英語教育にさらに力を入れたい」と中山学長はいう。
「世界標準型」がやってきたTSMC熊本上陸の衝撃
英語力はTOEICの点数ではない
この記事にもあるように、求められる英語力は「TOEIC750点」というものではなく、英語で就職面接も受け、その後の入社手続きも英語こなせて、入社後もすぐに使えるような実践的な英語力が求められます。
これは一過性で一部のことか?
これは、一過性だったり、ごく一部の話となるのでしょうか?
円安で製造業が戻ってくる?
円安で輸出が伸びるので、雇用が生まれて豊かになれる、と思うかもしれません。輸出立国も今昔。7月時点で12か月連続して貿易赤字となっています。
このTSMCの誘致など、円安を活用して世界から工場を呼ぶことで、雇用は確保されるようになるかもしれません。
しかしそれは私たちが高度成長期時代に、日本の賃金上昇によって、人件費が安い国々に工場が出ていたのと同じような理由であり、付加価値は生まず、時間でお金をもらうだけの発展途上国になるということです。
生活水準は落ちていく
EVの普及など、世界ではパラダイムシフトが起きている中、変化を嫌い、社会が変わらず、進まない構造改革で成長できない日本は、世界が欲しがる、売れる製品を生み出せなくなっています。
世界は成長を続けている中で、需要が増えて物価が上がっているので、売るものはないが、国内では調達不能かつ必要不可欠なもの(エネルギーや食料品)を海外から買わなくてはならない我が国は、今までの生活水準を維持するのは困難となっていくでしょう。
(以降については加筆した部分になります)
初期のお祭り騒ぎ以降の黒船の波及効果計算
経済効果は4兆円以上
TSMCが熊本県にもたらす経済効果について、九州フィナンシャルグループの試算によると、10年間で約4兆3000億円にも及ぶと言うことです。これは、熊本県の県内総生産を3%も押し上げる効果があるそうです。
これは、TSMC自身の工場建設だけでなく、その関連産業の設備投資なども見込めるうえ、それらの雇用によってもたらされ、大きな恩恵を受けることができそうです。
教育面でも良い影響が
また、工場稼働に伴い、台湾人を中心とした外国人が、従業員及びその家族含め600人程度の来日があり、そこには子供も含まれ、その子供への教育のため、教育業界でも大きな動きがあるそうです。
インターナショナルスクールが
地元の学校法人が、駐在員の子供たちのために、新たに小学部を設立し、それをインターナショナルスクールとするそうです。
授業は英語で行い、日本人の子供の受け入れもするそうです。
香港の塾も進出し英語やプログラミングを
また、香港の塾も熊本に進出するそうです。
この塾は、
3歳から12歳の子どもを対象に英語やプログラミング、デザインなどを学ぶ授業を行っていて、中国やタイなど14の国と地域で事業を展開。
TSMC駐在員の子どもの教育に香港の塾が県内進出へ NHK
していると言うことです。
熊本高専は台湾へ学生を派遣
熊本高専は、台湾にある「成功大学」という大学(本当にある大学です。ネタの名前ではありません)半導体技術で教員や学生の交流や共同研究に取り組んでいくそうです。実際に2023年の夏には学生を送り込んだそうです。
派遣されるには、もちろん英語力が必要ですよね!
熊本大学には半導体研究施設「半導体研究教育センター」を設置
国策の半導体工場誘致なので、国も「人材育成」を強化ており、九州全体で取り組んでいる人材確保と育成を支援していくそうです。
熊本大学では、「半導体研究教育センター」を設置して、半導体の材料やその周辺技術の最先端の研究を行うとのことです。産学で共同研究なども行い、実践的な知識が身に着けられるというメリットもあるそうです。
今後10年で、半導体関連の人材は、4万人以上が必要となる試算もあり、今後有望な研究です。
経済にも教育にも
TSMCの工場の進出が、経済効果だけでなく、子供の選択肢が広がるとともに、教育が国際化、多様化するので、子を持つ親としては非常に嬉しい波及効果ですね。
私も何度かこの付近を通ったことがありますが、空港以外特にこれと言ったものがない普通の田舎町だった記憶があります(10年くらい前のことですが)。子供の目が海外に向く良いきっかけとなると思います。
円安の恩恵を受けるにはやることがある
このTSMC誘致へ政府から補助金が4760億円出ているそうですので、経済効果及びその波及効果を考えると、政府の金の使い方として大成功なのではないでしょうか。
ロシアによるウクライナ侵略以降、円安が進んでおり、製造業の国内回帰や、日本への海外企業の直接投資が期待されます。この熊本県で起きたようなことが、日本の他の所でも起こると嬉しいものです。
地方自治体は、待ちの姿勢ではなく、また旧来の誘致ではなく、先進的な海外企業の誘致を進めるべきではないでしょうか。
そういった中で、法人税のアップや、電力不足・不安定化、値上げは、人手不足は円安の恩恵を減じるものであり、改善が必要だと思います。。